この2峰は、近い距離にあるので我々は普通「田代帝釈」と併せて呼んでいる。
尾瀬、会津駒などのメジャーなコースの近くにありながらも、訪れる人の絶えない名山である。
振り返ると、この山への山行計画は、いつも6月に立てていた。
どうせ訪れるなら、日本固有種のオサバグサの群落を見るべし。ということで、この梅雨時に計画を立て、断念するということを繰り返してきた。
今年もまた同様かと思っていたが、なんと今年は梅雨の晴れ間が巡ってきたのである。
田代山湿原に佇む岳人 |
6月中旬から7月上旬にかけて、馬坂峠登山口や山頂から田代山への稜線の針葉樹林下には、オサバグサの群生が見られる」
田代山は、「帝釈山脈にある標高1,971mの山である。広大で平坦な頂上部に田代山湿原が広がり、高山植物が豊富で、帝釈山に至る登山道沿いにはオサバグサが群生する。
頂上部にある湿原の北東端、標高1,926.3mの地点に三等三角点「田代山」があり、そのために田代山自体の標高が1,926mとされることもあるが、最高地点の標高は1,971mである」Wikipediaより
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26日の早朝、私とH君は東北自動車道を北上していた。
日光ICで高速を降り、栃木県側から猿倉登山口を目指す。猿倉登山口から田代山を経て、帝釈山までを往復しようという計画である。
大谷SAで朝飯を食べ、東北道に再び乗り、しばらく走ると那須連山が左手に見えてきた。
「おう、なかなか良い天気じゃのう。那須もよく見えるわい。あれ?」
なんと、日光ICはおろか、その次の矢板ICを通過するところであった。
折り返して、日光ICへ戻る(逆走ではないよ)か、次の西那須野塩原ICで降り、福島県側から猿倉登山口へ向かうか選択しなければならない。
少し迷うが、我々は常に前進を選ぶのである。
西那須野塩原ICを降り、一路、南会津の桧枝岐村方面に向かう。
栃木県側からでなく福島県側から、猿倉登山口を目指すことに計画を変更。
ICを降り、国道352号を走る。するとまた新たな考えが。。。
「いっそ、馬坂峠の登山口まで行っちゃったほうが、楽かも」
車の走行時間が1時間ほど増える計算にはなるが、馬坂峠登山口の標高は1,780m。一方、当初予定の猿倉登山口は標高1,430mである。
老いた岳人に300mの標高差は魅力である。
我々は迷わず前進を選んだのである。
桧枝岐村にようやく入る。もう午前10時を廻っている。
そこからは1996年に開通した林道川俣・檜枝岐線を馬坂峠まで駆け上がる。
未舗装・砂利&でこぼこのダートコースを15km、時速30kmがやっとである。
地元の車に追い抜かれたり、途中でH君得意の小用を足したりしながら、40分ほど掛けてようやく馬坂峠である。
この馬坂峠駐車場はトイレも完備しており、きれいに整備された駐車場である。
毎年この場所で「オサバグサ祭り」が行われるのである。
ここで「オサバグサ祭り」を紹介しておこう。
この林道はこの馬坂峠で終点 |
ここでオサバグサ祭りが行われます。 |
「オサバグサ(筬葉草)は、ケマンソウ亜科の多年草。本種のみでオサバグサ属を構成する。日本特産。本州の中部地方、東北地方に分布する」植物であるが、
この帝釈山への登山道にそのオサバグサの大群落があり、毎年「オサバグサ祭り」が行われているのである。
今年は、第11回目であり、期間は6月4日〜19日である。そう、先週で終わったのである。
ちなみに昨年2015年は、6月13日〜28日に開催されている。
今年は雪解けも早く、オサバグサも1週間早く咲いちゃったのである。
オサバグサ祭りとは一体いかなるものか?
実際に見てはいないが、期間中、先着2,000名様に他では絶対手に入らない特製記念バッジがプレゼントされる。ただ、それだけらしい。
オサバ神輿を担いで練り歩くとか、猿のマネをして勝鬨をあげるとか、馬の鳴き声で騒ぐとか、そういう下品なことはしないのである。
静かにオサバグサを愛でるのが祭りの主眼である。
で、そのバッジをつけてると、オサバボーイ、オサバガールと呼ばれ、(誰かに)尊敬されるらしい。
そういえば、出合った登山者は、もうすぐオサラバしそうなジジイとオバサンガールが多かったのも偶然ではあるまい。
我々は、「オサバグサ祭り」の大混雑を避け、祭りのあとを狙って来たのである。
時は既に11時近い。すでに20台ほどの車が駐車している。
おまけに観光バスが、2台も上がってくる始末である。
観光バスの運ちゃんと話をすると1台が40名、もう1台が20名の団体とのこと。
12時に下山予定とのことである。
駐車中の20台の車と合わせると、この登山口だけで100名近くが山に上がっていることになる。「オサバグサ祭り」は先週で終わりですよ~
猿倉登山口からの登山者も多いので、かなりの多人数がこの山域をうろついているのだ。
ただ、我々の登山開始時刻がかなり標準とはズレているのが幸いである。
馬坂峠 帝釈山登山口 |
登山口付近では風も強く、気温も低い。
天気も思ったより悪化。一雨来そうな曇天である。
短パンTシャツ、雨具持たずの軽量化登山を画策していたが、短パンは断念する。
10時55分。標高1,780mの馬坂峠登山口から登り始める。
まずは帝釈山を目指すが、出だしから結構な急登である。
ところどころ、急な勾配のところには、木造の階段などが整備され、登り易い登山道である。
登山道は整備されています |
装着が面倒なのでスパッツをしてこなかったのは大失敗である。
H君は雨具完備、スパッツ完備でご機嫌である。
ゴゼンタチバナ(ポピュラー) |
ギンリョウソウ(ポピュラー) |
マイズルソウ(ポピュラー) |
これがオサバグサ(希少種) |
これは希少種のペンペン草でないの? |
アズマシャクナゲのが綺麗です |
そうそう、噂の「オサバグサ」である。
登山口付近から、ペンペングサっぽい白い花がところどころに咲いている。
これがオサバグサなのか?ちょいショボイ。
花期が終わりに近いからショボイのか、そもそもがショボイのか?
確信の持てぬまま、オサバグサ群落を登り続ける。
稜線が近くなると、今度はシャクナゲが姿を見せ始める。
オサバグサより、シャクナゲのが綺麗で立派でご機嫌である。
いきなり山頂に到着 |
休憩するオサバガール |
日光の山々 左が赤薙山 真ん中が女峰山 男体山は小真名子山のかげに |
山頂は開けていて、見通しは良いがあいにくと雲が降りてきている。
日光方面は視界があるが、尾瀬方面、会津駒ケ岳方面は雲に覆われている。残念。
アズマシャクナゲが最盛期 |
アズマシャクナゲの蕾 |
このあたりから、早朝から山に入っている登山者とすれ違いはじめる。
登り優先なので、楽勝と思ったが、トップを行くH君は心優しいので時折、道を譲ってやっている。私にはなかなか出来ない行為である。
12時に下山予定の40名+20名の団体さんともすれ違う。
ただし、もう12時なのである。彼らが馬坂峠に着くのは13時を廻るであろう。運転手さんは待ち疲れである。
すこしはましなオサバグサ |
花期終了まぎわです |
最盛期は白い花が鈴なりになっているのですね |
帝釈山から田代山湿原まで快適な雲上の稜線歩きが待っている。
とはならず、視界の無い樹林帯&ぬかるみの中の稜線をとぼとぼと進む。
この稜線もオサバグサの群生地ということで、さきほどよりはちゃんと咲いている。
よく見るとこの植物、葉はシダ類で花はペンペングサ(ナズナ)のハイブリッド品種なのである。(たぶん間違った理解です)
だらだらと1時間程も、展望も無く詰まらん稜線を行くとついに田代山避難小屋に到着。
この避難小屋は弘法堂とも呼ばれ、弘法大師が祭ってある。
弘法大師様、こんな所までいらっしゃってるの?弘法大師様って何人いるの?と勘ぐる。
調べてみると、田代山は1912年7月30日に開山され、その時に「太師堂」を建立したとのこと。
避難小屋か仏堂かはっきりしろ! |
中には立派な弘法大師の坐像が祀られている |
立派な避難小屋でした |
他にも数人休んでいる人がいる。
今日の昼は7&11謹製 |
コーヒーを飲んでいるとポツポツと雨が降り出した。
我々としては異例の短時間で昼食を終え、今回の最終目的地である田代山&田代山湿原に向かうこととする。
田代湿原は一方通行 |
ワタスゲ咲く湿原を行く |
小屋の周囲の林を抜けると、すぐに目の前に田代山湿原が広がっていた。
ここまで来て、昼飯食べれば良かった。
たった30秒で雲泥の差であった。
尾瀬ヶ原と同様の高層湿原であるが、ここは田代山の山頂全体が湿原となっている。
多種の植物が咲くことでも有名な湿原で、ミズバショー、イワカガミ、ワタスゲ、ショウジョウバカマ、チングルマ、ヒメシャクナゲ、タテヤマリンドウ、コバイケイソウ、ニッコウキスゲなどの花々が咲き乱れ ていない~~(泣)
尾瀬ではありませんよ |
ベニサラサドウダン |
ツマトリソウ |
イワカガミ |
ヒメシャクナゲ |
ワタスゲ |
みんな大好きチングルマ |
そろそろ花期終了 |
チングルマのなれの果て |
ただ、これまでの森林地帯の鬱屈とした雰囲気から開放され、本来30分程度の周遊ルートを1時間近く掛けて楽しむことができたのであった。
田代山の三角点に着くころには小雨がぱらつくもすぐに止み問題なし。
湿原唯一の池塘 弘法池 |
田代山山頂にて |
山頂だが最高地点ではないのだ |
これから咲くタテヤマリンドウ、コバイケイソウがすくすくと育っておりました。
タテヤマリンドウの蕾の群落 |
タテヤマリンドウの蕾 |
猿倉へ急ぐドラクエ・オサバボーズ |
もっと花が咲いていると良かったんですが |
ワタスゲ 雨にぬれポヨポヨ感薄い |
すでに午後2時。
雨は上がったが、暗くなる前に馬坂峠に戻らなければならないので、先を急ぐことにしよう。
また、暗い樹林帯のドロドロ稜線を引き返すのだ。
シダがしなだれている |
こんな道ばかりでした |
泥田の金庫(意味なし) |
登山口まで戻ってきました。 |
予定時刻よりも早く馬坂峠に戻ってきたときには、満車だった駐車場も我々の車を含めて3台が残っているだけだった。
我々が着替えを終わるとすぐに、東京都民の水源地に雨が降り始めたのであった。
赤いスポーツカーは悪路に大苦戦。 |
視界・展望がいまひとつであったこと、
山道が樹林で覆われていて楽しい稜線歩きにならなかったこと、
道がドロドロであったこと、
花々の咲き具合がいまいちであったこと
などのマイナス要素はあるものの、
ヘタレも出ず、負傷もせず、雨にもほとんどやられず、クマにも遭わず、5年越しの計画を無事に達成できたので、全体としては満足度の高い山行でありました。
同行してくれたH君と「田代帝釈」に感謝です。
<蛇足の結果論>
道を間違えるのは車でも歩行でも問題外であるが、結果的に山行ルートを逆にしたことは正解であった。
歩行時間、標高差を短縮できたのは勿論であるが、実は、最初計画した栃木県側から猿倉駐車場への林道は、一部崩落しており、7月22日までは通行禁止であった。
結果は、我々の取った桧枝岐村から馬坂峠か、福島県湯ノ花温泉から猿倉へ入るしかルートは無かったのだ。
事前にちゃんと調査しておけば良かったのだが、昨年はこの時期に問題なく日光側から入れたので油断してました。
結果論としては、ドライブルート、山行ルートともに正解であったが、今回はラッキーだっただけなので、今後は事前調査をより綿密にする必要があるだろう。
<山行記録>
日程:2016年6月26日(日) 日帰り
同行者:Hさん
天候:曇り時々晴れ一時小雨
当初計画:猿倉登山口駐車場(10:00)-小田代(11:10)-発(11:20)-田代山湿原(11:50)-発(11:55)-田代屋湿原避難小屋(12:05)-(昼食)-発(12:35)-帝釈山(13:45)-発(14:00)-田代山湿原避難小屋(15:00)-発(15:10)-小田代(15:30)-猿倉登山口駐車場(16:30)
変更計画(逆廻りルートに変更):馬坂峠登山口駐車場(10:55)-帝釈山(11:45)-発(12:00)-田代屋湿原避難小屋(13:10)-(昼食)-発(13:30)-(田代山湿原周遊)-田代山(13:50)-発(14:00)-田代山湿原避難小屋(14:15)-発(14:20)-帝釈山(15:40)-馬坂峠登山口駐車場(16:10)
コースレコード:馬坂峠登山口駐車場(10:55)-帝釈山(11:33)-発(11:42)-田代屋湿原避難小屋(12:50)-(昼食)-発(13:18)-(田代山湿原周遊)-田代山(13:50)-発(14:00)-田代山湿原避難小屋(14:10)-発(14:20)-帝釈山(15:30)-発(15:40)-馬坂峠登山口駐車場(16:05)
実歩行時間:4時間13分
帝釈山山頂から日光方面を望む |