人差し指を立てると、湿った空気が指先で凝結しそうなほど湿度が高い。
濃密な雲の中である。
王が頭を目指し、先を行く二人の後姿が霧の中に溶けていく。
美ヶ原は、古くから放牧地として活用されていた山域であり、日本百名山にも挙げられている。
道標や休憩所、ホテルも整備され、晴れていれば快適なハイキングコースである。
ただ、今日のように厚い雲に飲み込まれている美ヶ原も悪くない。
雲の中を歩く。視界は周囲30mほどか?
この雲の中のハイクは、人気の観光地を歩いているとは到底思えない雰囲気を醸し出す。
7月の3連休、ここ数年アルプスの縦走を続けている。
今年の我々の当初の計画は、雲上の花畑「白山縦走」であった。
諸々の事情により、今年は断念。残念。
一番大きな理由は、私の6月の足の怪我。
右足かかとの原因不明の激痛がなかなか治らず、申し訳ないが山行離脱を宣言。
天気もかなり悪そうなことから、今年の3連休山行は残念ながら中止となった。
しかし、縦走は無理でも日帰りハイキングでリハビリをもくろむ。
梅雨前線が停滞する中、日曜日がもっとも良さそうということで、申し訳ない気持ちでS君、H君にメールをしてみた。
すると両君ともに参加したいとのこと。(山行中止で暇だったのね)
実は、S君も2週間前の夜行日帰り八ヶ岳全山縦走のゴール近く、「ニュウ」のそばで転倒、肋骨を2本折ったとのこと。(しかし、痛い痛いと言いながらも先週末にフルマラソン2本完走って???変!)
一方、H君も去年の苗場山山行以来の腰痛が完治せず。時折、相当痛むらしい。
結局、3人ともうち揃ってのリハビリハイキングってことになりました。
早速、我がチームの隊長S君が計画表を送ってくれる。
確認すると霧ケ峰(丸山)、美ヶ原(王ヶ頭)のピークハントを含む、全工程6時間余の計画であった。
霧ヶ峰か美ヶ原をのんびりと山々と花々を眺めながら歩いてみようという、目論みは雨散霧消。
リハビリハイクとしては、相当挑戦的な行程となったのである。
「大丈夫かいな。」と思う一方、「まあ、今回はついて行けるところまで行く」ということで、足が悪化すれば即リタイヤという方針で臨む。(実はいつもこの方針なんですが)
中央高速を諏訪ICで降り、霧が峰へ向かう。
平地はまずまず晴れているが、八ヶ岳も南アルプスも雲の中である。
S君天気予報では、午後には晴れてくると言うので期待。
そして、午前7時45分。霧が峰・車山の肩に到着。
見事な雲の中である。
写真はすべてクリックで拡大します。 |
計画では、霧が峰の最高峰である車山(1,925m 日本百名山)までハイキングする予定であったが、霧雨に煙るビーナスの丘で周囲を見回すもほとんど視界がないので、ひとまず撤退。晴れるであろう午後に戻ってくることにする。
ビーナスの丘は霧雨に煙る |
和田峠を経由し、美ヶ原に移動。
山本小屋駐車場に車を停め、王ヶ頭までのハイキングを開始。
この時点で、まだ午前8時45分。
そして、美ヶ原も雲の中であった。
歩きはじめるとすぐに美ヶ原の草原に出る。
広々と広がる一面の牧場。空は冴え渡り、遠く聳える山々を眺めながらの快適ハイクとなるはずもなく、雲に覆われた牧場の柵に沿ってひたすらに静かに王ヶ頭を目指す。
美ヶ原は雲の中に |
突然の牛君登場にびっくり |
テガタチドリ |
ハクサンフウロ |
美しの搭では中にある鐘を鳴らしてみた。この塔は、霧で視界が悪い時に登山者のために鳴らす鐘の塔として建てられたとのこと。
まさに今日のような天気の時のためにある塔なのである。
美しの塔の鐘を鳴らす |
雲の中をさらに進む。
ついに美ヶ原の最高峰である王ケ頭(2,034m)に到着。
ついに美ヶ原の最高峰である王ケ頭(2,034m)に到着。
王ヶ頭頂上も完全に分厚い雲の中。
濃い霧の中に数本の電波塔が林立し、異界に来たような雰囲気である。
本来であれば北アルプス、八ヶ岳、そして富士山まで望める絶景の景勝ポイントなのであるが、視界は0。心の目をもっても北アルプスは見えて来なかった。残念である。
唐突に現れた王ヶ頭ホテルをひやかし、しばし休憩ののち駐車場まで戻ることにする。
来た道を戻るか、バリエーションルートの「アルプス天望コース」を選ぶかである。
当然、我々の選択にためらいはない。満場一致で「アルプス天望コース」を行くこととする。
この選択が今ハイキング最大のチャレンジとなろうとは、この時点では誰も気づいていなかった。
ホテルの裏の急坂をまず降りる。すぐに崖沿いの道に出る。
本来、このルートは、崖っぷちに沿ったかなり迫力のある道であるが、厚い雲が幸いし、危険も恐怖も感じない。
時折生えている立ち木の姿に現されるように風が強いルートである。風の通り道になっているのだろう。
おそらく雨では無い、雨では無く厚い雲が、暴風とも言える強さで横から吹き付けてくる。
ウスユキソウの群生地であった |
右サイドから一方的に吹き付ける暴風雨の中を言葉少なにひたすら撤退。
途中で景勝地である烏帽子岩を通過すれども、どれが烏帽子岩なのか分からないし、俺の家は近くないし。
百曲り園地を経て、塩くれ場への最後の登りを越えて、牧草地に出る。やっと一息つける。
ここまで来ると、風は止み、雲も幾分薄くなってきた。
美しの塔の付近までくると時折晴れ間まで見えるようになり、観光客も増えてきた。
風雨に煽られ続け、お腹も空いてきたので山本小屋にほど近い休憩所で昼食とする。
1杯200円のきのこ汁をいただき、とりあえず本日の「リハビリハイキング」前半終了。
ここまでの実歩行時間は約3時間である。
思わずつぶやく。
「これがリハビリですか~~~?」
山本小屋駐車場に戻ると晴れ間が広がってきたので、そのまま牛伏山へ。
1,990mの山頂は、すぐ裏の美ヶ原高原美術館に違和感を感じるもののなかなかの展望であった。
しかし、山名の通り、本当に牛が伏せているとは思わなかった。
山本小屋駐車場まで戻る。ふる里館で「サマーレスキュー」のパンフを貰う。
ちょうど、本日放送分のロケ地がすぐそばにあることが判明。
突っ込みどころ満載のドラマではあるが、時折映る山の風景が楽しみなドラマだ。
物見石山。レンゲッツジの群生地がそのロケ地である。
S君とH君はとりあえず物見石山のピークまで行ったが、眺望が望めないこともあり、私は駐車場で待つこととする。
レンゲツツジは季節が終わっており、数株しか咲いていなかったが、休憩しながら小諸方面の景色を楽しむ。
霧が峰まで戻る途中、八島湿原に寄る。
空もそこそこ晴れてきた。
湿原を周遊するルートには木道が整備されており、多くの観光客がいる。
私も山靴を履くのが嫌だったので、観光客を真似てサンダルにて散策。
湿原入り口から鏡池まで往復するが、広大な湿原の景色と数多くの花々を堪能した。
そしてニッコウキスゲ |
午後4時。霧が峰・車山の肩まで戻る。
S隊長の予想に反し、霧が峰は未だ雲の中。
車山登山は断念し、ビーナスの丘をニッコウキスゲハンティングに出かける。
鹿によるダメージが相当あるようで、群生地は鹿避けの電流柵で囲まれている。
ニッコウキスゲの満開には、1、2週間早いようで、全面黄色のキスゲ三昧とはいかなかったが、それでも多くのキスゲを見ることができたのはラッキー。
今回のハイキングでは、残念ながら期待した北アルプス・八ヶ岳の山々の姿を望むことはできなかった。
逆に暑い雲のおかげで観光地でありながら、混雑もなく、霧と雲が醸し出す独特の雰囲気を味わうことができた。
逆に暑い雲のおかげで観光地でありながら、混雑もなく、霧と雲が醸し出す独特の雰囲気を味わうことができた。
今年一発目の夏山山行は、全行程、雲と霧と風の中となったが、リハビリハイキングとしては上々の結果であったと言えよう。
そして、この翌日、2012年の梅雨は明けた。
<山行記録>
日程:2012年7月15日(日) 日帰り
同行者:Sさん、Hさん
天候:曇り時々小雨一時晴れ
当初計画:
①車山の肩駐車場(9:15)-車山(10:00)-車山乗越(10:35)-車山の肩駐車場(11:05)
②八島湿原駐車場(12:35)-鎌ヶ池(13:05)-諏訪神社(13:30)-八島湿原駐車場(14:15)
③山本小屋(15:15)-美しの塔(15:35)-塩くれ場(15:45)-王ヶ頭(16:25)-塩くれ場(17:15)-美しの塔(17:25)-山本小屋(17:45)
コースレコード:
①車山の肩駐車場(7:45)-付近散策-車山の肩駐車場(8:10) <歩行15分>
②山本小屋(9:00)-美しの塔(9:18)-塩くれ場(9:32)-王ヶ頭(10:18)-三城分岐(10:40)-烏帽子岩(11:03)-百曲り園地(11:24)-塩くれ場(11:35)-美しの塔(11:43)-茶店(11:49)-(昼食)-山本小屋(12:23)-牛伏山(12:36)-山本小屋駐車場(13:02) <歩行3時間7分>
③物見石山駐車場(13:22)-物見石山(13:35)-物見石山駐車場(13:53) <歩行31分>S、Hのみ
④八島湿原駐車場(14:30)-鎌ヶ池(15:05)-八島湿原駐車場(15:36) <歩行1時間6分>
⑤車山の肩駐車場(15:59)-ビーナスの丘(16:14)-車山の肩駐車場(16:34) <歩行33分>
実歩行時間:5時間1分 <S、Hさん;5時間32分>
帰り道を急ぐ。明日は晴れそうだ。 |